楽さんのエンタメ語り<音楽編>蒼いフォトグラフ

松田聖子 / 蒼いフォトグラフ

 一世を風靡した聖子ちゃんカット。僕と同世代の女性ならば、高校時代に真似たことがある人が多いんじゃないかな。そう、松田聖子は80年代を代表する一流のアイドル歌手だったけど。そんな一般的評価を遥かに超えた「可愛い」の絶対的アイコンでもあった。しかし、トレンドを消費するスピードは今よりもずっと早く、目まぐるしかったのも当時の特徴で、僕らが高校を卒業する頃にリリースされたシングル『瞳はダイアモンド』のジャケットの彼女は、ショートカットでメイクも濃いめ、デコルテも露わな衣装。もう聖子ちゃんと呼ぶのもはばかられるほど大人びていた。
 そのシングルのB面に収録されていたのが、「蒼いフォトグラフ」というカップリング曲だ。当時の僕は、英語をマスターすることを目的にワーキングホリデーを使ってオーストラリアに留学することを決めていた。その資金調達と車の免許取得のために、魚屋のバイトと短期の日雇いバイトをかけ持ち、重労働の毎日を夢だけを糧にあがきながら過ごしていた。テレビドラマ『青が散る』(宮本輝の小説が原作)の放送が始まったのも、そんな時期だった。若く経験も少なかった新人俳優たち(今は大御所だけど笑)の演技は、よく言えば初々しくもあり、とても褒められるものではなかったけど。そんなことがどーでもよくなるぐらい画面の中のキャンパスライフは鮮烈で、別世界みたいにキラキラして見えた。そんな憧れを持って見ていたことは、ずっと誰にも話せず今に至るんだけど(笑)。
 その頃の記憶は、主題歌だった「蒼いフォトグラフ」によって強く刷り込まれていて、この曲のイントロを耳にするだけで、二十歳そこそこの自分が漠然と抱きつつ手放してしまった夢を想い出して。何とも言えないしょっぱい気持ちになる。